世界スマートシティ指数の1位はスイスのチューリッヒ、2位はノルウェーのオスロ、3位はジュネーブと、ヨーロッパがトップ3に君臨しています。9位のシンガポールはアジア唯一のトップ10入りを果たしています。
シンガポールは2020年~2023年は7位、2024年には5位にランクインしており、国家を挙げた取り組みが高く評価されていることがわかります。
次に高い順位の都市は13位の韓国のソウルで、14位は中国の北京、15位は上海、19位は香港、23位は台湾・台北と続いています。
30都市のうち6都市がアジア圏という結果になりました。
では、高い評価を獲得しているアジアの都市は、どのようにスマートシティ化を進めているのでしょうか?「交通」の次世代化に繋がる具体的な事例を紹介します。
①シンガポールの取り組み
シンガポールのパノラマ都市ビューにテクノロジーホログラム。アジア最大の技術拠点。コーディングとハイテク科学を開発するコンセプト。2重露出。
過去5年間、高い順位をキープし続けているシンガポールはアジアを代表するスマートシティ先進国。最新のデジタル技術を活用して経済活性化と豊かな暮らしを目指す「スマート国家(スマートネーション)」構想を2014年から開始しています。
首相府直下の組織としてスマートネーション関連の取り組みを省庁の垣根を越えてスピーディーに推進できる仕組みを早期構築したことがプロジェクト成功の大きな理由だと言われています。
・デジタルツイン(バーチャルシンガポール)
現実世界とデジタル世界を結びつけ、両者をリアルタイム連携させる技術「デジタルツイン」。世界で初めて国全体をデジタルツイン化することに成功した国がシンガポールです。
都市開発やインフラ管理などの多分野で活用されており、たとえば「新たに道路や建築物を建設したいときにデジタル世界で設計や運用のシミュレーションをしてから実際の工事に入る」など画期的な使い方ができます。
デジタルツインをさらに深化させたプロジェクトが地理情報データなどをベースに国全体の3Dモデル化を推進する「バーチャルシンガポール」です。
地形情報や建物、交通機関、水位、人間の位置などのリアルタイムデータを統合・最適化することが狙いであり、いま国家の研究機関が総力を挙げて取り組んでいます。
都市全体の3Dモデル化にともない、集約されるさまざまな情報の結合を目指して多数の試験運用や調査が実施されています。
・MaaSの活用とスマートモビリティ推進
公共交通やライドシェアを統合したシームレスなサービス「MaaS(Mobility-as-a-Service)」の導入で都市交通を革新している点もシンガポールが高く評価されているポイントです。
カーシェア「Car Club」やライドシェア「Grab」、電動キックボードシェアリング「Beam」など、モビリティのシェアリングサービスをいち早く導入。異なる形態の交通サービスをシームレスに結ぶ取り組みを早期から行っていました。
また自動運転車の普及は世界一と言われており、自家用車のほか自動運転機能搭載のオンデマンドバス運行などの整備が進んでいます。
https://maps.app.goo.gl/cVQUEwGTTSnDYdXC6
自動運転者専用のテストサーキット「CETRAN Test Circuit」は「自動運転のための住めない街」とも言われています。
②韓国の取り組み
韓国仁川 – 2025年1月4日仁川近海に臨む洋上発電所は、韓国の未来を支えるためにエネルギーを活用している写真素材2589474437 | Shutterstock
近年都市化が進む韓国。ソウルでは「2040ソウル都市基本計画」を掲げ、今後20年の未来像に向けて開発が進んでいます。
韓国では2008年にユビキタス都市(U-City)建設法を公布して以来、IT技術を活用した都市主要サービスのデジタル化を目指して再開発を行ってきました。現在約50か所の地域でスマートシティ取組が進められていると言われています。
現在はソウルのほかに仁川や世宗の実績が高い評価を獲得しています。
・松島スマートシティ計画
ソウルの隣接都市である仁川は韓国を代表するスマートシティです。そのなかでもビジネスやIT事業の拠点である「松島新都市」はコミュニケーションインフラの整備が進められるなど、最先端の都市開発が進められてきました。
区域内には電子タグにより作動する交通センサーが338か所、犯罪防止センサーが117か所、災害防止センサーが3か所を設置されており、ユビキタスな環境情報収集が行われています。
都市の各所から収集した交通・災害・環境データは、24時間体制でシステム分析を行ったあと市内各所のメディアボードやフィールドシステム、企業、住宅にフィードバックされています。
IoT技術を用いたデータ分析が進んでいる都市だと言えるでしょう。
・世宗市スマートシティ計画
世宗市は2012年につくられた新しい都市で、「ソウルから複数の政府関係機関が移転した街」としても有名です。
バス高速輸送システム(BRT)や自動ごみ処理システムなどのスマートインフラや3D空間データを用いたスマートシティマネジメントなど、画期的な仕組みを構築しています。
バス高速輸送システム(BRT)には自動運転バスが導入されており、一般の路線バスや車とは異なる専用レーンを走るので渋滞のリスクなく移動できると評判です。
世奈市は世界で初めてスマートシティ国際規格「ISO37106」の認定を受けた都市としても有名ですよ。
・ソウル市のグローバルAI行政都市
2025年8月に行政分野に独自のLLM導入することを発表したソウル市。公務員の文書探しから、レポート作成業務に至るまでAIが代わりに処理するシステムを開発することで、「AI行政支援システム」の普及を目指しています。
参考:76_7.pdf
③中国の取り組み
中国三亜 – 2024年10月9日:電気自動車充電ステーションは夜間に効果的かつ効率的に機能します写真素材2556850075 | Shutterstock
北京・上海・香港が指数上位に入る中国。近年各地でスマートシティの建設が進む今注目の国です。都市の生活やレジャーにも先進的な技術が次々と導入されています。現在建設中のスマートシティは500以上。ヨーロッパ諸国の実績を圧倒しています。
・ET City Brain
2017年に「次世代AI発展計画」を発表した中国。アリババ社開発の都市管理システム「ET City Brain」は、クラウドとAI技術を活用した新しい分析システムです。
リアルタイムで都市データを分析し、交通や公共インフラの運用を効率化する役目を果たしています。
たとえば杭州市中央部4区には2000〜3000台のサーバーと4000台を超えるカメラが設置されており、道路のライブ映像をAIで分析しています。
モニタリングによりAIがリアルタイムで各道路の交通量を分析することで、信号のタイミングを自動調整して交通渋滞を改善するほか、事故対応の迅速化や環境改善に活用されているのです。
「ET City Brain」が導入されているその他の都市は、蘇州・北京・上海・深圳・成都・南京・広州などです。
④台湾の取り組み
台湾では市と政府主導で「台北スマートプロジェクト」が推進されており、交通、住宅、医療、介護、教育などのテーマで都市のスマート化が進んでいます。
・台北駅スマート化
「入り組んでいて分かりにくい」と評判の台北駅再開発は「台北スマートプロジェクト」取り組みのひとつです。
情報端末「KIOSK」や駅構内へのビーコン設置、スマートパーキングシステム導入などによる利便性向上を目指しています。
・グリーンエネルギー政策
台湾では2025年までに脱原発目標を掲げており、全体の発電設備容量に占める割合を、天然ガス50%・火力(石炭・石油)30%・再生可能エネルギー20%にまで引き上げるという目標を設定しています。
グリーンエネルギー政策に伴い、市内各地ではU-motor(シェアバイク)、 U-EV(シェア電気自動車) U-Parking(シェア駐車場)、YouBike(シェアサイクル)などのシェアリングサービスが積極的に導入されています。
加えてEVカーやEVバス、電動スクーターも台頭しており、カーボンニュートラルに向けたモビリティの電動化が進んでいると言えるでしょう。
・台北市の実証実験場計画
台北市では民間事業者が自治体の許可を得て、定期的に市内で実証実験を行っています。
過去には電気自動車充電機能やAIoTアプリケーション機能などを有する「5Gスマートポール」や、人の行動、ごみ収集車やバスの流れ、路上駐車の状況をモニタリングする「スマート街路灯」など、交通スマート化に貢献する革新的なサービスが実施されています。
先進国の中で遅れを取っていると思われがちな日本のスマートシティ政策。今年度「ウーブン・シティ」がオープンしたことでIMDの指数がどのくらい向上するか気になるところです。
指数上位のシンガポール・韓国・中国・台湾の取り組みに引けを取らない新しいプロジェクトとして、アジアを牽引する存在になって欲しいと期待しています。
他国の進捗と合わせて、今後の動向にぜひ注目してみてはいかがでしょうか。