2025年12月27日
スマートシティ先進国の欧州に学ぶ、新しい「都市交通」の形とは
2025年9月25日、トヨタ自動車株式会社(以下トヨタ)開発の「ウーブン・シティ(Woven City)」が静岡県裾野市にオープンし、日本国内ではいまスマートシティへの関心が高まっています。 スイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表した世界スマートシティ指数(2025)の順位は大阪99位、東京108位(※)とやや下位に位置しており、世界基準で判断すると日本はスマートシティ後進国。まだまだ発展途中であると言えるでしょう。 (※エントリーは全146都市) 1位がスイスのチューリッヒ、2位はノルウェーのオスロ、3位はジュネーブと、ヨーロッパがトップ3に君臨していることから、上位を占める国は欧州が多数であることがわかります。 スマートシティ先進国の欧州ではどのように都市開発が進められているのか、交通の次世代化に繋がる取り組みと合わせてご紹介します。
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片倉 好敬
Katakura Yoshitaka
アベントゥーライフ株式会社
代表取締役 兼 CEO
世界で開発がすすむスマートシティの歴史は?
スマートシティの起源は1970年代にアメリカ・ロサンゼルスが取り組んだ都市ビッグデータプロジェクトだと言われています。
その後1994年にオランダ・アムステルダムが世界初の仮想デジタルシティを構築に成功し、「スマートシティ」という言葉が世界で注目されるようになりました。
2000年代に入ると、多くの国や企業が総力でスマートシティの研究を始め、未来都市実現に向けて動き出します。特に欧州では政府主導での急開発が急ピッチで進められ、IOTやビッグデータ、AIなどの技術を都市に取り入れることで人々の生活や交通に革新をもたらしました。
今後、スマートシティの割合は世界中で増え続けると予想されており、2050年には世界人口の最大70%がスマートシティに住むと言われています。都市のスマート化は今世界中で注目されている重要な取り組みなのです。
スマートシティ先進国・欧州の事例に学ぶ「最先端の交通革命」
では、スマートシティ先進国である欧州ではどのようにスマートシティ化を進めているのでしょうか?「交通」の次世代化に繋がる具体的な事例を紹介します。
①スイスの取り組み
美しい街並みと豊かな自然が魅力のスイス。世界スマートシティ指数(2025)で1位と3位にランクインしており、「いま最も都市開発が進んでいる国」と言っても過言ではありません。スイスではAIやARを活用した街づくりが進んでいます。
チューリッヒで導入されているスマート街灯照明やAR
チューリッヒでは、交通量に応じて明るさが変わる街灯をいち早く導入。最大70%のエネルギー使用量削減に成功し、市街地全域にスマート街灯を設置した都市として有名です。
スマート街灯照明は、省エネや夜間道路の安全性向上、防犯対策としてはもちろん、環境データの収集や交通量の測定、公衆無線LANのアンテナとしての機能も果たし、マルチに活躍できる新しい新技術としていま注目を集めています。
2031年運用開始?地下トンネル計画
2040年までに貨物交通量が約4割増加することが想定され、トラック輸送の限界を迎えると言われているスイスでは、約500キロの貨物専用地下トンネルを設置し、荷物を積んだ自動運転車を走行させるプロジェクト「CST(Cargo Sous Terrain)」が進められています。
人間も一般車両も関与しない完全管理空間と、100%再生可能エネルギーを用いた運用が特徴で、地下道の中継地点に昇降機を設置することで地下から地上へ積み荷を持ち上げ、配送トラックに積み替えて配達するという流れを想定しています。
2031年までに第1区間の開通を、その後対象範囲を広げて2045年には約500kmのネットワーク構築を計画すると公表されています。もし実現すれば、地上の道路交通に影響を与えることなく、トンネルネットワークを通じて都市間をつなぐ画期的なシステムとなるでしょう。
②ノルウェーの取り組み
ノルウェーでは電力消費の約98%が再生可能エネルギーから賄われており、エコロジカルな都市開発が進む代表的な国の一つです。
電動トラムやEVカーが街中を走る光景が一般的で、「空気が綺麗な国」としても高く評価されています。はじめて訪れた人は街の澄んだ空気に感動するそう……。2025年4月の新車登録EV(BEV+PHEV)比率が97.4%という実績もあり、世界で最もEVカーの普及が進んでいる国と言っても過言ではないでしょう。
排気ガスゼロを目指す街、オスロ
オスロは2016年に自治体としては世界で初めて「気候予算(※)」を採り入れた都市として有名です。
※気候予算とは、温室効果ガス(以下「気候排出ガス」)の排出量を部門ごとに可視化し、年ごとの削減目標と対策を定める「政策予算」のこと
2028年までに公共交通機関の排出量ゼロを、2030年までにオスロ道路を行き来する個人自動車と貨物自動車の排出量ゼロを目標に掲げています。
2019年には電動タクシー用ワイヤレス充電のインフラ構築を、2021年には世界初の電気自動貨物船「ヤラ・ビルケラン(Yara Birkeland)」を導入するなど、早い段階で電動モビリティの普及に成功しています。
未来型コンセプト都市「Powered by Ulsteinvik(パワード・バイ・オーシュタインベック)」
建築スタジオが手掛けた「Powered by Ulsteinvik(パワード・バイ・オーシュタインベック)」は、ノルウェーの西海岸にある小さな町を未来型の都市に進化させた一大プロジェクトです。
モダンで次世代的な印象をもたらす多機能ビルや住居と、新たなモビリティプランや都市型の電力システムを組み合わせた未来型都市は世界的な建築アワード「アーキタイザーA+アワード2021」を受賞。高い評価を獲得しました。
③フィンランドの取り組み
フィンランドは世界で初めてMaaSシステムを展開し、
レベル3「「Integration of the service offer(サービス提供の統合)」を初めて実現させたMaaS大国で、世界で幸福度が高い国ランキングでは8年連続で1位を獲得しています。(2025年現在)
MaaS先進都市、ヘルシンキ
ヘルシンキでは市内と隣接都市の公共交通手段は「HSL(ヘルシンキ市交通局)」が一括して管理しており、利用者は一律モビリティアプリケーション「Whim」を使用します。
アプリ1つでさまざまな移動モードに対応しているので、「Whim」さえあれば移動手段の検索から予約、利用、支払いと包括的な機能の網羅が可能です。操作も簡単なので若者から高齢者までどんな人でも安心して使えるという点もアプリ利用が進んだ理由だと言われています。
ユバスキュラ市の水素プロジェクト
フィンランド中部の湖水地方に位置する都ユバスキュラ市では、新たな燃料「水素」を活用したエネルギー開発が進んでいます。
このプロジェクトには日本企業も関与しており、世界初の「水素燃焼サウナ開発」にはトヨタ自動車株式会社(以下トヨタ)が、水素燃料を利用した公共交通のパイロットプロジェクト「水素ステーションの実証事業」にはトヨタと旭化成株式会社が携わっています。
水素燃料はカーボンニュートラル実現やエネルギー自立の観点からいま世界中が開発と普及を目指している新しい再生可能エネルギーです。今後の動きに注目が集まっています。
スマートシティ先進国の欧州と日本の違いや、これからの課題とは?
このように、スマートシティ先進国である欧州では早い段階から構想の着手を開始し、現在多くの都市でスマートシティの基盤が完成しています。
一方日本では「ウーブン・シティ」をはじめ、全国各地で開発や実証実験が実施されているものの、未だ発展途上であると言えるでしょう。
欧州諸国と比較すると、日本では都市全体の統合的なデータ活用や市民参加の仕組みが十分に浸透していないと言われています。また、各省庁間での「横」の連携が不十分ゆえに業務に重複や非効率が生じている縦割り行政やスピード感の不足も課題として指摘されています。
日本では「ウーブン・シティ」のほか、柏の葉スマートシティやDATA-SMART CITY SAPPOROなど、各地で
さまざまな取り組みが行われています。
今後どのような形で次世代モビリティや次世代交通が都市開発と共に発展していくのか、日本のスマートシティ指数は今後向上するのか……世界と日本の動きに注目してみると新たな発見があるかもしれません。